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 それでも、そのつもりで振り返れば、いつからか自分の一部が原田にもまた向けられていたのだと腑に落ちもした。  原田を思わせる別の男に触れられ、同じように名前を呼ばれて昂るのは紛れもない事実。男に何かされたいなんて想像したことさえなかったのに、一旦触れられてしまえば、それは明確な欲望になって和伊の身体を拓かせた。  井川に抱かれて乱れながら原田を想う。  それはどこか現実離れした感覚だった。原田の笑顔を思い出す。和伊、と呼んで笑うときの屈託ない顔を。そうしながら身体に食い込み、目も眩むような快感を注ぎ込むのは井川だとはっきり認識しているのだ。 「灰が落ちる」  井川の声で我に返り、和伊は差し出された灰皿の上に穂先の灰を落とした。 「悪ぃ……」 「いや」  小さな事実と観察から、和伊本人より余程的確に状況を見抜いた井川とは、それきりにはならなかった。  連絡先を交換したのがどうしてか自分でもよく分からない。結局は誘いが来れば飯を食いに行き、ホテルか井川の部屋に行く。井川の部屋に行くのは大抵今日のように金曜で、朝まで呆れるくらい何度も抱かれて、気が向いたときに帰るまでほとんど服も着ないで過ごす。  あの日、お前を知りたいと井川は言った。実際に、井川はセックスするだけでなく、もっと話したそうな顔をする。だが、和伊はそれを察知する度、どうしていいか分からなくて顔を俯け、俺を知りたくないかという質問にもまた、答えていなかった。 「なあ、お前、次の金曜の夜って空いてるか?」  井川がスウェットに足を突っ込みながら訊ねてきた。和伊がぼんやりしている間に、井川は煙草を吸い終えていたらしい。 「──今んとこ何もないと思うけど、何で」 「うちの会社が協賛した舞台のチケットがあんだよ」 「舞台ってなに。喋ってたと思ったらいきなり歌い出すみたいなやつ?」 「演劇って言ってたけど、歌うかどうかは知らねえ」  外国人のように肩を竦め、Tシャツを頭からかぶる。途中で喋ったせいで、井川の声はくぐもっていた。 「顧客用に買ってたチケットが余ったからって上から貰ったんだけど」
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