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 一緒に行かないか、と言われると思って構えたら、井川は全然違うことを言った。 「俺はそんなの興味ねえし。やるから、お前、誰かと行かねえか? 女とか」  さっきまで散々和伊を啼かせていたくせにあっさり女と、とか言い出す井川にちょっと面食らう。とはいえ、別に付き合っているわけでもなし、当たり前と言えば当たり前か、と思い直した。 「俺だって興味ねえ。お前が女と行けばいいんじゃねえの?」 「寝ちまうよ、そんなん。そんで文句言われるとか俺はご免だ」 「要らねえからって押し付けんなよ。捨てりゃいいだろ」 「協賛してっからなあ。空席あると……仕方ねえ、誰か彼女持ち探して行かせるか。なあ、ラーメン食うか」  あっさり話題を切り替えた井川に訊ねられ、和伊は素っ裸のままベッドから這い出した。 「食う。先にシャワー浴びてくる」 「分かった」  冷蔵庫を開けながら井川が答え、和伊はすでに勝手知ったるバスルームに足を向けた。  どうせ飯を食って暫くしたらまたやるだろうに何度もシャワーを浴びるのも水の無駄だなと思いつつ、身体に染みついた井川の匂い──体臭や香水のように明確なものではないが、ふと香る気配みたいなもの──が気になって、和伊は短い廊下を無駄に急いだ。
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