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 和伊は大企業ではないが、中小企業というには若干規模が大きい会社で営業をしている。同年代の友人に比べて特別待遇がいいわけではないが、悪くもない。  それに比べて原田は大手都市銀行勤めで将来有望株。おまけに高身長でイケメンとくれば、いずみが原田に乗り換えたのも仕方ない──というのが友人たちの見解のようだった。  勿論面と向かって和伊にそれを言う馬鹿はいないが、言葉の端々から読み取れるし、同情心でいっぱいの顔を見たら、そんなことは丸分かりだった。 「あのな、島村」 「ん? 何?」 「お前のそのツラすげえむかつく」 「えっ」 「かわいそうな奴だから一所懸命慰めてやらないとなみてえなツラで俺を見んな馬鹿野郎」  居酒屋で会うなり言ったら、友人の島村は暫し押し黙り、吹き出した。 「斉藤らしいなあ」 「うるせえよ、どういう意味だ」 「いや、すげえしおたれてたらどうしようって。けど、斉藤なら案外そんなんでもねえのかなとか思ってたりもしててさ」 「何かしらねえけど失礼だな、お前は。あ、すみませーん」  店員を呼び、ビールと食い物をいくつか注文し、和伊は壁に背を凭せ掛けた。ベンチシートの背が壁のようになっていて、個室ではないが、背後の客は気にならない造りだ。 「で、どうよ?」 「何が?」  煙を吐く和伊を見ながら加熱式煙草を吸いつけ、島村は首を傾げた。 「まだ落ち込んでるか?」 「いや──まだって言うか、最初から落ち込んでねえけど」 「意外とそんなもんか」  店員が来てビールと突き出しの小鉢を置いていなくなる。 「そりゃ聞いたときはマジか! って思ったけどなあ……」 「結婚?」 「ああ、いや。じゃなくて付き合うって」 「原田から聞いたんだろ」 「そう。いずみと付き合っていいかって。付き合う前に俺の許可を取るとかさ……俺はいずみの父ちゃんかよって」
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