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「原田ってそういう奴だよなあ」
島村は頷いて小鉢に箸をつけた。
「学生んときからさ、一見傍若無人っぽく見えんのに実は全然だよな」
島村の言う通りだ。原田は背が高くて顔つきがシャープなせいかきつい性格だと誤解されがちだが、実際は優しいし、人懐こくて穏やかだ。勿論ズルだってするし馬鹿もやるが、根は真面目、もっと言えばクソ真面目な男だった。
「でも、じゃあ最近会ってねえの?」
「会ってねえよ。多分まだ俺がへこんでると思ってるだろうし」
和伊は店員が運んできた鶏の唐揚げに目を落として島村から目を逸らした。
本当は、原田からは何度も連絡が来ていた。つい昨日きたメッセージにも早いところ新婚旅行の土産を渡してしまいたいとか書いてあったが、どっちにしろ今は会いたくなくて返信すらしていなかった。
「そっかあ。じゃあやっぱ違う奴か」
「え?」
顔を上げた和伊に、島村は唐揚げをもぐもぐやりながら言った。
「いや、先週の金曜見かけたんだよな。駅前のあの店にいたろ? なんだっけ──」
島村は和伊が井川と入った居酒屋の名前を言って続けた。
「俺もいたんだぜ」
「同じ店にいたのか。気づかなかった」
「会社の送別会で。結婚して旦那の転勤で辞める人がいてさ」
ししとうの串にかぶりつきながら頷く。島村は右手で煙草を持っているが、加熱式煙草は銜えられないから、童顔と相俟って両手にスプーンとフォークを握りしめた子供みたいに見えた。
「奥の小上がりにいたから遠くてさあ。斉藤はこっち向いてたから、俺はたまたま振り返ったときに気づいたんだけど。で、連れの奴、最初原田だと思ったけど、なんか原田と話してるにしては斉藤の顔がちょっと違う感じだしさ」
「違わねえだろ顔は。俺の顔は取り換え可能じゃねえし」
「そういう意味じゃねえってー」
島村は手を伸ばしてししとうがひとつ刺さったままの串を皿に置いた。
「原田とだったらもっと気安い雰囲気だけど、ちょっと緊張感あったからさ」
「まあ、そんな親しい相手じゃねえしな」
「え? そうなの?」
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