きっと忘れない

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 ハクがウチに来たのは、僕が十歳の時のことだった。  ある冬の寒い日、まだ目も開ききっていない、小さな小さな白猫が庭に迷い込んできた。恐らくは近所で捨てられた子猫だったのだろう。母親猫の姿を探してみたけれども、どこにも見つからなかった。  子猫は、誰かが世話をしなければすぐに死んでしまう。  自分で餌を獲ることも出来ないし、排泄だって定期的にお尻を刺激してあげないと上手く出来ない。一人では生きていけない生き物なのだ。  「このまま放っておけばこの子も死んでしまう」――見かねた僕と両親は、その子猫を飼うことにした。  最初は苦労の連続だった。  普通の牛乳をあげるとお腹をこわしてしまうので子猫用のミルクを買ってきたり、何時間か毎におしりを刺激してあげて排泄を促したり、体が冷えないよう寝ている間は毛布でくるんであげたり……。  人間の赤ちゃんをお世話するのと同じ位に大変だった。  けれども、そんな苦労の甲斐があったのか、子猫はすくすくと成長してくれた。  白い柔らかな毛並みから、僕らは彼のことを「ハク」と名付けた。  ハクはとてもやんちゃな猫だった。  オス猫のわりに気性は優しかったけれども、とにかく動き回ることが大好きで、草木の多いウチの庭を嬉しそうに駆け回り、あるいは木によじ登り、時には下りられなくなって「キューン」という情けない声で僕らに助けを求めることもあった。  成猫になって、どんな高い庭木からもヒラリと下りられるようになった時は、ちょっとだけ寂しさを感じたものだった。  ハクはとっても甘えん坊な猫でもあった。  夏以外の殆どの季節、ハクは夜の寝床を僕の布団と決めていた。  春秋は布団の上――特に僕の上に乗っかって寝るのがお気に入り。  冬は決まって布団の中。お互いに温もりを分け合うように、身を寄せ合って眠ったものだ。  でも、ハクはよく「夜のお散歩」のついでに獲物――ネズミや蛇を獲ってきて、家の中に持ち込んでくることもあったので、朝僕が起きると布団の上にでっかいアオダイショウが! なんてこともあった。  ハクとしては、「お土産を持ってきてあげたよ」というつもりだったんだろうけど……。
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