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時にそんな珍事件を起こしつつも、僕とハクとの十年間は穏やかに過ぎていった。
心身ともに不安定になる思春期も、変わらず接してくれるハクのお蔭で沢山救われた。
高校受験や大学受験の時には、勉強に集中する僕の周りで「何で遊んでくれないんだよ!」と、ハクが抗議のゴロゴロをよくしていたっけ。
初めて彼女を家に連れてきた時も……ハクはゴロゴロと「キューン」を駆使して、彼女のハートをがっちりキャッチしてくれたものだ。
でも、それから数年後、僕とハクは離れ離れになることになった。
僕が彼女と少し早い結婚をして、家を出ることになったのだ。
本当はハクを新居に連れて行きたかったけど、「猫は家に付く」もの。それに、ハクは僕にとっての「兄弟」であると同時に、両親にとっての「息子」でもあった。
だから僕は、ハクを連れて行くことを諦めたのだ。
「ハクに会えば連れて行きたくなるから」なのかなんなのか、自分でもよく分からないけど、その後の僕はあまり実家に近寄らなくなっていった。
両親に用事が有ったり届けものがあったり、はたまた盆や正月に顔を出す時くらいしか近寄らなかったので、必然、ハクと接する機会も減っていったのだ。
だからなのか、ハクは僕とたまに顔を合わせると「お前なんか知らない」とでも言いたげな表情を浮かべ、そっぽを向くようになってしまった。
「猫は三年の恩を三日で忘れる」なんて言うけれど……ハクの場合は、きっと僕のことを覚えていて、抗議の意味でああいった態度をとったのだと思う。
僕がそれを悟ったのは、ハクが亡くなる数時間前のことだった。
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