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両親と僕は、一番大きな庭木の根元にハクを埋めることにした。子猫の頃、ハクが勇んで登り、下りられなくなっていた、あの木の根元に。
ハクの墓標として、これ以上ふさわしいものは無い気がしたのだ。
この木がある限り、ハクがそこに居てくれるような気がしたのだ――。
――そして時は更に流れ、いつしか僕も人の親になっていた。
「結婚は早かったのに子供は遅かったね」なんて心無いことを母に言われたけど、一番喜んでくれたのも、足繁く僕の家へと通って子供の面倒を見てくれているのも母なので、文句は言えない。
子供もよく母に懐いてくれて、最初の言葉が「パパ」でも「ママ」でもなく「バァバ」だったくらいだ。……ちょっと悔しい。
そんなこともあって、僕は子供をよく実家に連れて行っていた。
母に面倒を見てもらえて助かるし、庭が広いので子供を元気よく遊ばせられるし……なにより、ハクのあの木に会うことも出来る。
名も知らぬハクの木は、ますます太く強く育っているように見えた。
きっと僕の子供が大人になる頃にも、変わらずそこに立っていてくれることだろう。
子供を抱っこしながら、木の下で僕がそんな物思いにふけっていると……ふいに子供が木の方へ手を伸ばし始めた。どうやら木に触りたいらしい。
一歩、木の方へ近寄ると子供がその紅葉のような可愛らしい手で木にそっと触れた。
僕もそれにならって、そっと木に触れてみる。
手のひらに伝わってくるのは、ザラッとした手触りと固く冷たい木の感触。それでもどこか温もりを感じる……だなんて言ったら、流石にロマンチストが過ぎるだろうか?
子供の方は、その木の感触が気に入ったのか、楽しそうにキャッキャと笑いながら、木の表面をペシペシと優しく叩くように撫でている。
――どこかで、「キューン」というハクの鳴き声が聞こえた気がした。
(了)
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