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冷たい珈琲
彼女は熱すぎるくらいのコーヒーを用意していた。コーヒーカップをセンターテーブルに一旦置き、彼女は1冊のアルバムを本棚から取り出しソファに腰を掛けた。
アルバムを膝に置き、コーヒーカップに手を伸ばす。
彼女はいつもと違う何かを感じたが、コーヒーをそっと口にする。
「冷た…」
いくら寒いといっても暖房は入っている。冷めるのを考慮し熱めに用意したはずのコーヒーが、この数分の間にまるで冷蔵庫で冷やされていたかのようになっていた。
彼女は冷静だった。
ただ、嬉しそうにでも少し悲しげな顔をしていた。
「今年も来てくれたのね…」
彼女しかいない部屋。
彼女以外の声はしない。
けれど彼女にだけは特別ぬくもりを感じることができていた。
彼女はアルバムを開いた。
"彼と"と書いたページには幸せいっぱいに笑う男女の写真、その中の1枚にアンティークのソファに座りコーヒーカップを両手で包み暖をとる"彼"の姿があった。
次のページに1枚だけ、病室で撮られた寂しげに笑う彼の写真があり、他に写真はなかった。
アルバムの裏表紙に文字が書かれていた。
3年前の今日の日付とともに彼女は"ありがとう"と記していた。
彼女はアルバムを閉じると、冷たくなったコーヒーを飲んだ。
そして少しの間彼を隣に感じていた。
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