なケなしのはなし

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 うん……そうだね。確かに最近、頭頂部が寒く(薄く)なってきているとは思っていたよ。一礼すれば大地が剥き出しの更地が見えるくらいだし。 「ねえねえ、つけてみて」  言われるがまま、私はポリエステルで作られたカツラで更地を隠した。どうやら女物らしく首回りまですっぽりと覆われた。 「どう? 温かい?」 「あ、ああ。これなら肌寒い日でも安心だ」 「よかった! じゃあ雪が降っても平気だね!」  それなら毛糸の帽子のがよかったんじゃ……とは言えない。  何故ならコレは沙来紗(さらさ)が初めて自分のお小遣いをはたいて買ってくれたものだから。沙来紗の心がこもった贈り物だ。文句など言えるわけがない。 「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
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