なケなしのはなし

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 私はその言葉通り、家にいる時は入浴と就寝以外常に肌に離さないようにした。もちろん会社へ出勤する時もカツラは必ず被って行く。 「パパいってらっしゃーい」 「はーい。いってきまーす」  何故なら沙来紗が毎日玄関まで律儀に見送ってくれるからだ。  無論、家を出るとすぐにカツラは鞄にしまう。こんな不自然な髪型のまま会社に行ったらいい笑い者だからな。  妻には「ご近所の人に見られたら恥ずかしいからやめて」と言われたが、沙来紗の純心を傷つけたくない私はカツラを帽子感覚で使い続けた。そのうち沙来紗の方からも「ハズいからやめて」と言われる時が来るだろう。そう思っていた。  が、甘かった。
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