なケなしのはなし

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 その年から、沙来紗は誕生日と父の日の年二回、私に様々なカツラをプレゼントしてくれた。  金髪に始まり、ロン毛、角刈り、ツンツン、モヒカン、アフロ、芸能人やアニメキャラをモチーフにしたものまで、月日を重ねる毎にバラエティーにとんだカツラが棚に並んでいく。  まさか着せ替え人形の感覚で実の父で遊んでいるのだろうか。いや、それでも私は構わない。一般的に娘は年頃になると父親と距離を置きたくなるそうだが、沙来紗は成長してもこうして私を思ってプレゼントし続けてくれるのだから。私は恵まれている方だ。  それに自分でも新たな自分と出会えることに徐々に快感を覚え始め、まんざら悪い気はしないでもない。 「あはははは! パパウケるーっ!」  ……まあ、さすがに頭頂部に一本毛が生えただけのハゲヅラをくれた時は『ばっかもーん!』と怒鳴りそうになったが。
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