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第二章
「つ……疲れた……」
何しろ普通の振り付けじゃなく、術の発動のための予備動作だ。「兎歩」とか。普段やらない動きってきつい。
プリントした成績表を眺めて士朗お兄ちゃんは言った。
「うん、初めてでこれだけできれば上出来」
「そりゃどうも……」
他にどうコメントせいっちゅーの。
「士朗―、ここにいるー?」
そこへひょっこり現れたのは蒼太お兄ちゃんだ。
「宅配便届いたわよー」
中性的な顔立ちで声も高く、男か女か分かりづらい。言葉遣いもオネエだし。
「おう、サンキュ。何だっけ……ああ、店の商品だ」
中にあったのは女物の靴だった。舞台用なのか、ハデハデ。
士朗お兄ちゃんは骨董屋やってて、いわくつきの物の浄化や処分、改造が仕事なんだって。
ただし普段は仕事せず、ぐーたら三昧。いい年して何やってんだ。
大抵ネットサーフィンかゲームか漫画読んでる。昼間寝転がってる以外の姿勢を見たことがない。
これが保護者&当主で大丈夫かあたしの人生。
「劇で使う靴みたいだね」
「ああ。有名劇団の主演女優がダンサー役で使ってたものだそうだ。よくある話でけっこうすごい性格だったらしい。仲間内の評判はすこぶる悪い。が、稽古中突然の事故死。未練が怨念となってこれに憑いたわけだ」
「『赤い靴』みたく踊り狂う系かしら」
「それならまだいい。履いた者の姿を少しずつ変え、自分そっくりなコピーを作り出す。で、乗っ取って舞台に上がりたいんだとさ」
「うわ」×2
すごい執念。
「お祓い料金払うから持ってってくれって頼まれた。講演のチケットも特等席くれたぞ」
「その演目は見たくないわ」
「ちゃんと違うやつだよ。それは講演前に中止になった。……そうだ、蒼太、こいつの除霊はお前やれよ」
「はあ? 何でアタシが」
「せっかくだからこのマシン使って実演してやれ。お前のほうが上手いし、プライド高い女へこますのお前なら角が立たないだろ」
「ああ、そういうこと。いいわよ、ただし新発売のマニキュア買ってくれたらね」
そういえば蒼太お兄ちゃんマニキュア塗ってるっけ。高級ブランドの。
化粧品もいっぱい持ってて、「いいなぁ」って言ったらこの前子供用の使ってお化粧してくれた。プロの技だった。あれならメイクアップアーティストとして食べてけると思う。
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