アブラトリ

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目の前で横たわる裸であちこちから血を流している先生を見ても、不思議と気持ち悪いとか怖いといった感情はいっさいなかった。あるのは目の前に横たわる肉塊としての先生と、とても純粋な空腹感だった。 何故か先生の身体から抵抗し難い、経験したことのない食欲をそそる不思議な臭いを感じた。肉塊を前にして我慢できず、すぐに僕たちも先生の身体に吸い付き、3人を真似るようにして音を立てて吸った。 すぐに口の中に生温(なまぬる)い鉄の味と、ドロドロしたグミのような蛙の卵のような不思議な食感が広がった。 いままで感じたことのない高揚感に包まれ、口のなかに拡がる肉が腐り酸味のあるようなすえた臭いが鼻から抜けた。どんなに吸い付いても満たされない空腹感に苛立った。 筋肉や血管は異物にしか感じず、口に入ると不快だった。もっとも不快なのは、腸そのものでゴムのような弾力は吐き気がした。ゴリゴリした皮下脂肪よりも臓器にまとわりつく黄色いベタベタした脂肪がさらに欲求を満たした。 吸えば吸うほど空腹感が増し、脂以外のものが口に入る度に効率の悪さに苛立った。 口の中で毛細血管や線維が歯の間に挟まり、それを指で摘まんで取ったがその間に他の奴らが先生の身体から脂を吸い取っているのが許せなかった。 自分が吸っている場所から脂肪が吸えなくなると、他の部位に吸い付いてみるが先生の身体からはこれ以上の脂肪は吸い取れなかった。 「ヤバイ……足りない……全然足りない……」 もはやなにかを考えることなど面倒でしかなく、すぐにでも脂を吸いたく周りを見回した。 陽が完全に落ち辺りは真っ暗で、車も走っていなかった。僕の周りには同じようにキョロキョロと辺りを見回す幼馴染と1年生たち、そしてさっきまで先生に張り付いていた3人しかいなかった。 お互いに会話をすることもなく、コミュニケーションをとるわけでもなく、なんとなく離れないだけだったが集まっていないと不安になった。
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