アブラトリ

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フラフラと大通りに出たが人の気配はなく、時々通る車が見えても思うように身体が動かなかった。吐く息がやけに白く、自分の身体が異様な熱を発しているのがわかった。 身体を触っても痛みや違和感はなく、なんとなく関節が固くなったような気がした。 やがて1年生たちの腕に透明感が出始めると、驚いた様子で何度も腕を挙げて月に透かして見ていた。その間もお互いに声を掛けることもなく、それぞれが黙々と自分のことだけをした。 僕たち幼馴染の4人はなぜかそばを離れず、移動するときも身体が触れ合うくらいの近さで歩いた。しばらくすると、両腕が透明になった1年生たちは、何も言わず突然3人の子供たちと姿を消した。 僕たち幼馴染は、なにが起こっているのか理解できず、ただただ空腹を満たしたいために人を探して徘徊した。 「イヒ…イヒイヒ…」 誰かはわからなかったが、先生と同じような笑い声のような不思議な声が聞こえた。 「イヒイヒ…イヒ…イヒイヒ………」 どれくらい歩いたかわからなかったが、小さな頃からよく知る古い寺の前にいた。 僕たちはなにかに引き寄せられるように寺に入って行くと、広い境内から少し離れた墓地の隅にゴミのように扱われた小さな古い倒れたままの石碑の前に集まった。なぜ、この小さな石碑の前に来たのかは自分でもわからなかった。 石碑にはなにかが刻まれた跡があったが、風化し文字は消え、かろうじて「水子・魂・遺碑」の3文字だけが読み取れた。 石碑の前で身動きがとれず、黙って立っているとどこからともなくお経が聞こえた。そのお経はとても静かで穏やかで、まるで子守唄のようだった。 まったく意識はしていなかったが、涙が溢れ出した。悲しいといった感情はなく、ただ自然と涙が溢れた。 そこで初めて意識が戻り、自分たちのしたことの重大さ、罪悪感、そして嫌悪感が一気に身体をいっぱいにした。 泣き叫び、どうしようもなく助けて欲しい気持ちと、先生の身体を吸い付くしたことを誰にも知られたくない気持ちが交錯し、パニックになった。 幼馴染たちも同じように錯乱し、泣き叫び、小さな石碑を抱き締めながら絶叫した。 お経が大きくなり、まるで僕たちを包み込むかのようにお経がすべての感情を押さえようとしているかに思えた。 お経が再び穏やかになると、僕たち全員、その場で崩れ落ち意識を失った。
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