アブラトリ

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いまでこそ駅前にビルが建ち並び、飲食店や雑貨店に若者が集まるこの町も、少し前の親の世代まではのどかな田舎町だった。 町から少し離れた場所にある、かつて漁が行われていた川もいまでは生活排水が流れ、魚影が見えていても誰も魚を獲ろうとはしなくなった。 それでも夏になると週末の河川敷にはBBQを目的としたグループが集まり、多くの若者たちで賑やかになった。 古くからこの地域に住む人達の間では、河川敷で遊ぶのはいいが、陽が落ちる前には河川敷から立ち去らなくてはならない…と、そんな話が言い伝えられていた。 親が子供の頃の話だが、当時この辺りで大勢の女子供が誘拐されたという噂が広まり、夕方過ぎは子供たちは出歩かないようにと役場から外出禁止令が出されるほどだった。 しかし両親に当時の話を聞くと、あの頃、実際に誘拐されたという話はなく、あくまで噂話を利用した子供の(しつけ)だったと教えてくれた。 そして学校の友達と話をしていても、それぞれの家庭で微妙に話が違い、夕方以降に外出してはいけない、夜8時以降は駄目だ、暗くなった河川敷に入ってはいけない、昼間でも雨の日は川に近づいてはいけないなど、各家庭で禁止されていることが違っていた。 それでも共通した内容もあり、それは誘拐された女子供は、陽が落ちて真っ暗な河川敷で全身に焼けた鉄串を刺され、身体中の脂という脂を絞り取られ大鍋がいっぱいになるまで誘拐が続くという事だった。 特に処女はよい脂が取れると言われ、当時の女の子たちは怖がって明るいうちに家に帰っていた。 脂を取る事が目的で女子供を誘拐することから、誘拐犯は「アブラトリ」と呼ばれた。 アブラトリの話は地元の人間なら誰もが一度は耳にしているうえに、肝試し大会があると必ずと言ってよいほど、誰かがこの話をするのが定番だった。
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