アブラトリ

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毎朝、学校に行くために布団から出るのが辛い季節になった。布団から少しでも手足を出そうものなら、布団の中に冷気が入ってきて快適な温もりを容赦なく奪った。 この時期は昼間でも乾いた空気と凍てつく寒さに、町の雰囲気もどこかどんよりとしていた。行き交う人々はしっかりと防寒対策をし、マフラーやネックウォーマーで口元も覆い会話が難しいほどだった。 春を感じさせるものはまだなにもなく、重たい空の下、目に入るものすべてがまるで凍りついたかのような無機質な青と灰色の冷たい世界に見えた。 そんなある日、突然全校集会が行われることになった。僕の通う学校では、学期の最初と最後に全校集会が行われるが、普段は学年集会が数回ある程度で、学期の途中で全校集会が行われることなどいままで一度もなかった。 普段とは違う雰囲気に、友達をはじめ僕も少しだけテンションが上がっていた。しかし体育館に入った瞬間、そこはまるで冷凍庫のように寒く薄着で来たことを後悔した。ほとんどの女子生徒は、腰に大型のタオルや毛布のようなものを巻いているので口では寒いと言いながらも男子ほど切羽詰まった感じはなかった。 体育館の暖房が入れられていたが、体育館全体が温まるころには全校集会も終わっているにちがいなかった。 寒さに耐えながらクラスごとに整列し、先生の話を待っていると、やけに暖かそうなベンチコートを羽織った顔色の悪い教育主任が現れた。そしてコツコツと叩いてマイクのテストをすると、神妙な面持ちで生徒たちに向かって静かに話始めた。 「えぇぇぇ………今日から、しばらくの間………登下校はグループでしてもらいます」 体育館がざわつき、生徒達はなにを言われているのか理解するのに時間がかかった。 「えぇぇぇぇ………皆さんのなかには、すでに知っている者もいるかもしれませんが、実は隣町で、小学生が3名………行方がわからなくなっています。警察や消防も捜索していますが、まだ見つかっておりません」 体育館の空気がさらに凍りついたかのように冷たく感じた。 教育主任の言葉を聞いて、誰もがアブラトリを頭に浮かべていたが、誰もそのことを口にはしなかった。 教育主任の話は続いたが、なにを話しているのかまったく頭に入ってこず、ほとんどの生徒たちは「アブラトリが現れた」と、得体の知れない恐怖に飲み込まれていた。
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