アブラトリ

4/16
前へ
/16ページ
次へ
教室に戻ると、いままで(おさ)えていた恐怖心から解放されたかのように皆が騒ぎだし、女子のなかには泣き出す者もいた。 子供の頃から聞かされていた「アブラトリ」と隣町でいなくなった小学生と中学生がどう関係しているのかはわからなかったが、この町で子供がいなくなるなど今まで聞いたことがなかった。 サッカー部の連中が、興奮気味に「アブラトリを捕まえようぜ!」と話しているのが聞こえてきたが、ほとんどの生徒たちは帰りの心配をしていた。 担任の先生から、家の人に車で迎えに来てもらってもよいと言われたが、迎えに来てくれるような親が家にいる生徒はほとんどいなかった。 迎えのない生徒たちは、文句を言いながらも集団登下校に従うしかなかった。 ホームルームで集団登下校の説明があり、他のクラスや学年も含め、家の方向が同じ生徒たちでグループになるように言われた。 そして放課後になると各教室のドアにそれぞれの地区の名前が貼りだされ、生徒たちは自分の家がある地区の名前を見つけて教室に入った。 クラスや学年は違ってもそこにいるのは子供の頃からの顔見知りばかりで、近所に住む連中が集まっていた。 「まさか、みんなで一緒に帰ることになるとはなぁ…」 「あ…俺んちに、お前から借りパクしてるPSのソフトあるよ…帰りに寄ってけよ…」 「そういえば俺の漫画、小4のときにお前に貸したまんまだけど、まだ持ってる?」 「お前の兄ちゃん、東京の大学に行ってんだろ…? 俺も東京の大学に進学してぇな…」 「なんだか、小学校の同窓会みたいな感じだな…」 どの教室に行っても同じようなやり取りがみられた。先生たちもできるだけ生徒の帰宅に同行するといって、とくに家が遠いグループには必ず先生がつくことになった。 僕のグループは同級生の幼馴染が4人と1年生が3人、そして担任の先生がついて計8人で帰ることになった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加