アブラトリ

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先生が一緒にいたこともあり怖さなど微塵も感じることなく、久しぶりに話す幼馴染たちと盛り上がった。 陽が陰り、辺りが暗くなってきて普段なら誰もがマフラーをグルグル巻きにして口元も隠すのだが、この時ばかりはお喋りが楽しく寒さも感じなかった。 先生もリラックスした様子で、途中で大きな道に出たときに「車に注意しなさい」「ちゃんと歩道を歩きなさい」と注意したくらいで一緒にお喋りに参加した。 しばらくして川沿いの遊歩道を歩いていると、誰かがなんとなく橋の下に違和感があるとつぶやいた。立ち止まりみんなで50メートルほど先の橋の下を見ていると、薄暗いなかになにかがユラユラしているのが見えた。 目を凝らしてよく見ると確かに橋の下になにか不思議な、そこだけ空気が歪んだようなモヤモヤしたなにかがあった。例えるなら透明なゼリーがそこにあるような、巨大なクラゲが置かれているような、なんとも言えない不思議な感じだった。 「ほんとだ…なに、あれ?」 みんながざわついている間、先生は一生懸命橋の下を見ていた。その様子は僕たちとは少し違い、困惑した様子にも見えた。 「なぁ…お前たち…なにが見えてるんだ…? どこに、なにがあるって…?」 先生の一言で僕たちに緊張が走った。みんなで橋の下を指さし、橋脚と橋脚の間のどの辺りにモヤモヤが見えるか何度も説明した。それでも先生は首をかしげるばかりだった。僕たちにはハッキリと見えているにもかかわらず、どんなに説明しても先生は見えていなかった。 「なぁ…橋の方に近づかないほうがいいんじゃない?」 「でも……橋を渡らないと家に帰れないし…」 「ってゆーか、あれ…危険なの…?」 僕たちは立ち止ったまま、前に進むかどうか話し合った。先生は一生懸命橋の下を見ていたが、どんなに頑張ってもなにも見えない様子だった。
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