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先生は誰かを狙って追いかけてくるわけではなく、とにかく真っ直ぐ視界に入った者めがけて走ってきた。驚くほど簡単に先生を避けることができたが、先生は「イヒイヒイヒイヒ」と変な笑い声をあげながらいつまでも走るのを止めなかった。
ぎこちなく走る先生から簡単に逃げられることがわかると余裕も出てきたが、先生の突然の異変にどうしたらよいのかわからず困惑した。アブラトリに憑りつかれたと思えば納得もできたが、心のどこかでそれを受け入れられないでいた。
実際にアブラトリがいることを信じていない部分もあった。確かに自分が幼いころは、アブラトリはサンタクロースと同じくらい信じ、陽が落ちるのを本気で怖がっていた。
しかしこの齢になると、目の前でアブラトリが現れたかもしれないと思っても、それはサンタクロースが実在すると言われているのと同じような違和感しかなかった。
現実に起こっていることは、河原によくわからない透明なブヨブヨしたものがあり、目の前で先生が変な笑い声を出しながら笑顔で鉄の棒を持って僕たちを追いかけまわしていることだった。
そして普段の先生だったらあり得ないほど運動能力が落ちていて、どんなに先生に体力があったとしても捕まる気がしなかった。
「なぁ…先生、どうしちゃったんだろ…? まさか、アブラトリになったんじゃないよな…?」
「まさか………お前、本気でアブラトリを信じてんの……?」
「いや……正直、微妙…。でも、ほら。先生の様子はあきらかに変だし、鉄の棒持ってるし…」
「だいたい、あのイヒイヒイヒってなんだよ…」
「アブラトリの笑い方なんじゃね…?」
「で…どうする……? どこかに大人いない? 先生を捕まえてもらって救急車呼んでもらおうぜ…」
「そうだな……」
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