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デザートが運ばれてくる頃には
極上の雰囲気にも慣れて
彼と会えなかった時間を埋めるように
自然と会話が弾んだ
時折“好きだよ”と囁く
不意打ちの甘い声と
真っ直ぐな彼の視線に
何度となく俯きそうになる自分を
奮い立たせるように
“私も”ちゃんと気持ちを言葉で伝える
まだ同じ言葉は直ぐには出てこないけれど
思いは同じと伝えたかった
“私も”そう答える度に
蕩けそうな笑みを浮かべる彼
それを見ているだけで
胸のドキドキは増して
温かい気持ちが広がる
でも・・・そうなればなるほど
1ヶ月後に迫った別れが
この世の終わりみたいに
恐怖として襲ってくる
そんな僅かに曇る私の表情を
彼は気づいていたんだと思う
不意に
「柚は寂しかった?
僕は会いたかったよ、柚に触れたかった」
“私も”と出そうとした口は
彼のストレートな想いを聞いて
込み上げてくる涙に負けた
私はどうしてこんな風なんだろう
気持ちを素直に言葉にしようとするだけで躊躇う
でも・・・
寂しいと言えば彼を困らせるかもしれない
触れたいと言えば1ヶ月後の別れに耐えられないかもしれない
それなら私の想いに蓋をして
彼を笑って見送れる自分になりたい
・・・自己完結
涙を拭おうとして上げた手を
「擦っちゃダメだよ」
彼の声が止める
伸ばされた彼の手が
そっと頬に触れ
溢れる涙を親指が拭った
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