人間嫌いな怪物《モンスター》学者

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 城を出たダイアン(マリー)とクレイは、マリーの待つ宿へと向かっていた。正確には、クレイが未だにマリーだと思っている、吸血猫(ダイアン)と合流する為だが。  その道中、すっかり賑わい始めた城下町市場を中程まで進んだところで、少女と野太い男の言い争う声が聞こえてきた。 「俺の店の信用がだな……」 「そんなの言わなきゃバレないでしょ?」 「とにかく! 百均でなきゃお前さんの商品は買い取らねーんだよ。それが嫌なら帰れ!」  そう言ってスキンヘッドの大柄な男が、荷物を抱えた少女の肩を力任せに突き飛ばす。彼女の持つかごのミトンが宙を舞い、彼女の体が大きく後ろへと飛ばされ、今にも後頭部が地面へ叩きつけられようとしたその瞬間、力強く逞しい男の腕が、少女の肩をガッシリと抱き、間一髪のところで彼女の身体は宙に浮いた。 「おぬし、大丈夫か?」 「え……」  彼女は自分の身体を支えてくれた男の顔を見て、更に瞳を大きく見開いた。太い眉にキリリとした目つき、顎には男らしい無精ひげが生えてはいるが、男が本気で自分を心配をしているのが伝わると、その辺りには補正フォーカスがかかる。  あまりにも彼女が心ここにあらずの反応だったので、ダイアン(マリー)はもう一度「意識はあるか?」と肩を揺すった。我に返った彼女は「は、はい!」と甲高い声で答え、ホッとしたダイアン(マリー)は彼女の足に力が入るのを確認しながら、ゆっくりと彼女の体を起こす。 「女に酷いことをする奴だな」  そう言い振り返るが、既に店の奥へ行ってしまったのか、そこに店主の姿は無かった。突き飛ばされた彼女――ジュリアは、助けてくれた彼の横顔をじっと見つめる。自分の足でその場に立てているにもかかわらず、とっさに掴まった彼の腰から一向に離れようともせずに。  その場に散らばったジュリアのミトンを一つ一つ拾い上げていたクレイは、その冷やりとした感触に既視感を覚えた。 「ダイアンさん、これはもしかして……」  そうクレイが言いかけたところで、遠くから「待ちやがれー!!」や「この泥棒猫ー!」という複数の罵声が聞こえてきた。何人かの店主達が、砂埃を上げながら何かを追いかけ向かってくる。その先には、見覚えのあるモンスターの姿が。 「「あ……」」
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