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法術コンロの赤い炎がメラメラと氷を包み、カチンコチンに固まっていた氷の塊はみるみるうちに溶けていく。ある程度氷が薄くなったところで、中にいた吸血猫が動き出し、自ら氷を破って外へと飛び出したが、その時炎の一部が長い尻尾に飛び火して、「ギャギャーー!!」という雄叫びが上がった。
「自業自得じゃな」
ダイアンの蔑んだ視線に耐えきれず、吸血猫はプイッとそっぽを向く。
「あ~あ。まさかこの泥棒猫が、あんた達のペットだったなんて……」
「別に飼ってはおらぬがな」
「今はこんな姿ですけど、僕らの心強い仲間なんですよ」
そう補足をした後で、クレイは店主達に吸血猫が盗んだ物の代金を支払った。ぶつくさと文句を言っていた店主達は、代金を払ってくれるならとそれ以上は責めず、金を受け取ってさっさと自分の店へと戻って行った。
結局、ダイアン達と一緒にいたジュリアは、泥棒猫の一味だと思われ、謝礼の話はすっかり無かったことにされたのだった。
「法術道具も売れないし、謝礼も受け取れない……今日は散々じゃない!」
その場で地団太を踏んで、やり場のないフラストレーションを発散しようとする。
ダイアンが「法術道具?」と訊き返すと、クレイは先程氷を溶かす為に買った法術コンロを見せた。コンロには“法術カセット”が装着されており、そのカセット缶の中には法術師が込めた火炎法術が入っている。カセット缶をコンロへ装着し、摘みを捻ると炎が出、炎の強弱も調節出来るという便利な法術道具が、この『法術コンロ』だ。法術道具屋にはこのような、法術師の法術によって生産された、いろんな種類の便利な道具が置かれている。
「彼女はこの店に、これを売りたかったようですよ」
そう言ってジュリアの持つかごの中のミトンを指差した。それを一つ手にとったダイアンは、至近距離で眺めて手触りを確かめる。
「ほぅ……。これは“不死鳥石”を入れた袋の材質に似ておるな」
「ええ。僕もさっき同じことを考えました」
クレイは再びコンロを点火し、その上にダイアンの持つミトンをかざす。案の定それは、全く燃える気配の無いまま形を保ち続けていた。
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