7人が本棚に入れています
本棚に追加
ピチョン……ピチョン……ピチョン……
筒状の下水道の中は、中央に汚水の流れる溝と、その両脇に吸血猫が一匹通れるくらいの通路があった。そしてその通路は常に、飛び跳ねた下水で湿っている。
(何でこんなことしてんだろ俺……)
暗闇の中、湿った通路を歩きながら吸血猫は、ギャで変換された文句を言った。しかしその文句を聞き届ける者は誰もいない。そこにはただ真っ暗い下水の一本道と、今にも嗚咽を吐きそうな生臭い下水臭が漂っているだけだ。
『いいですか? マリーさん。この下水道にいるネズミを捕まえれば、僕の同僚のモンスター学者が、貴女と体を入れ替えたモンスターについて詳しく教えてくれます。そうすれば、マリーさんの身体が取り戻せる情報がきっと手に入ります。頑張ってネズミを捕獲しましょう!』
下水道へ入る直前、クレイはそう説明したが、
(こんなことしなきゃ教えてくれないなんて……そいつ本当に同僚なのか?)
と、また愚痴をこぼす。
納得はしていないが、モンスターの情報は喉から手が出るほど欲しいので、ぶつくさ言いながらも渋々、このクエストには付き合うしかなかった。
(しかしこの下水道……本当にネズミなんかいるのか?)
確かにネズミが住みつきそうな不衛生さではあるが、吸血猫がこの下水道に入ってからというもの、全くネズミの気配を感じなかった。ネズミだけではない、生き物そのものの気配を感じないのだ。
暫く進むと突然、頭上から光が差す。そこは両脇から支流が合流するマンホールで、その横穴は既にジュリアの凍化法術で蓋をされていた。
「マリーさーーん、無事ーー?」
頭上の穴から、ジュリアの声がする。彼女は支流の穴を氷の壁で塞いだ後、マンホールの穴から吸血猫が無事その場所を通過したかどうかをチェックしていた。勿論、クレイにそう指示されたからだ。吸血猫はとりあえず「無事だぞ~」という、やる気の無い「ギャ~」で返答した。
「そこはこのメイン下水道の三分の一通過地点だからー。次のマンホールで待ってるねー」
そう言って、ジュリアはマンホールの蓋を再び閉める。見取り図によると、彼らが待っている下水口までにこのような支流の合流する地点が二つある。つまりジュリアがチェックするマンホールは、あと一つだけというわけだ。
最初のコメントを投稿しよう!