プロローグ:怪物《モンスター》になった盗賊《シーフ》

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『ダイアンへ 今の状況に驚いているだろうが、わしは今、貴様の身体を借りている。そのモンスターはわしの睨んだところ『吸血猫(きゅうけつねこ)』の類だ。吸血猫は、身体を交換する特殊能力を持っている。モンスターの詳しい情報を知る為、クレイのいる城へ行ってくる。貴様は宿で大人しく待っていろ。 マリーより』 (随分勝手なこと言ってんな…マリーのやつ。どうやって身体を交換したんだよ!)  嘆息するとダイアンはテーブルから窓へと移り、両開きのガラス窓を押し開けた。冷えた空気が彼の長い髭をそよりと掠め、全身をブルリと震わせる。この部屋は二階の屋根部屋だ。ダイアンは窓枠を越え、屋根の上に一歩、また一歩と前足を踏み出した。その足音は静かに、この宿で一番見晴らしの良い場所を目指す。  周囲には宿より高い建物がいくつもあり、フラウ王国の首都『フラワード』の街が一望…という訳にはいかなかったが、フラワード(いち)高い建物である『フラウ城』は、ここからでもはっきりと望めた。直線距離にして五百メートル先、というところだろうか。そびえ立つ城と、それを囲む高い城壁が見える。 (そう言えば、城にはモンスターを研究している学者もいるって言ってたな。それでマリーはフラウ城へ向かったのか)  だがそんなのは建前であると、ダイアンは見抜いていた。前回と前々回の二度に渡るクエスト、その依頼者でありクエストに同行したクレイ=マチスは、宮仕えのイケメン鉱物学者。この『フラウ城』で働いている。彼女は彼に会いに行ったのだ。  黒い毛だらけの足は屋根瓦を進み、隣の建物の屋根へピョンと飛び移った。そのずっと先にはフラウ城がある。 (誰が大人しく待ってるもんかよ)  ダイアンはペロリと舐めた前足で器用に顔を拭くと、再び歩みを進めるのだった――
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