7人が本棚に入れています
本棚に追加
下水口では、麻の袋を持ったクレイとダイアンが張り付いていた。幸いなことに、その下水口には点検用の階段が設置されており、足の踏み場が用意されている。
「ジュリアさんの法術が上手くいったみたいですね。さっきから下水量が極端に少なくなってます」
下水口の中を覗き込むと、光が差し込む四・五メートル手前までは見えたが、少なくなった下水が流れるだけで、生き物のいる様子等は確認出来ない。
「それにしても、いいタイミングでジュリアさんに出会えましたね」
「?」
「マリーさんがモンスターの姿になっちゃいましたから、僕らの中ではもう魔法を使える者はいませんし」
「すまぬ……」
「やだなぁ、何でダイアンさんが謝るんです? マリーさんがモンスターの姿になってしまったのは、ダイアンさんのせいじゃないでしょう。それに彼女のせいでもありませんし、誰も悪く無いですよ」
そう言って笑うクレイの笑顔を見ていると、ダイアンの胸は益々締め付けられた。
(魔法が使えぬわしの為にここまでしてくれていると言うのに……わしは今、クレイに正体を偽っておる)
そう思うと、どんなに自分が卑怯な行いをしているのかが浮き彫りになった。マリーとしてはただ、クレイに会いたい一心だったのだが。
「クレイ……実はな…」
「ダイアンさん、今何か聞こえませんでした?」
クレイが真剣な眼差しで口の前に人差し指を立てるので、ダイアンは下水口内へ耳を澄ませた。盗賊であるダイアンの特性で、今のマリーには普通の人間の1.5倍程優れた聴力が使える。
ドゴゴゴゴ……
地鳴りのような音と、それに紛れて「グルルルル…」という獣の唸り声が、下水道の奥から聞こえた。
「これは……何かあったようだな」
「マリーさんは大丈夫でしょうか?」
「いや、あやつは問題無い」
食い気味の即答に少し驚いたクレイだったが、「二人は信頼し合っているんだな…」と謎の解釈をした。マリー的には、吸血猫の中身がダイアンだと知っているので、勿論“どうでも良い”という意味での『問題無い』なのだが。
地鳴りは次第に大きな音となり、同時に沢山の小動物の鳴き声と、それに紛れて「ギャギャギャーーー!!」という叫び声が、下水道中に響き渡った。
「何ですか今のは!?」
「奴だ! 来るぞ!!」
「え!?」
最初のコメントを投稿しよう!