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ダイアンが咄嗟に麻袋を引き上げたので、釣られてクレイも袋を持つ手を引き上げた。下水口と袋の隙間から、下水道の暗闇を小さな二つの光が僅かに上下し、猛スピードで近づいて来るのが見える。あと五メートルで下水口という所まで来て、やっとそれが仲間の吸血猫だとわかると同時に、その後ろから、闇の塊が追いかけていることにも気付かされた。
ダイアンは下水口全部をしっかり覆いつくすよう、袋を持つ手に力を入れた。その反応に一瞬遅れたクレイの作った隙間から、運よく吸血猫が外へと飛び出し、それに続くように闇の一部も外へと漏れ出す。それは日の光によって、十数匹のドブネズミだとわかった。
クレイは慌てて下水口を隙間無く覆った。勢いを増した下水と一緒に、ドブネズミ達が次々と袋へ入り、予想を遥かに上回る速度で袋はネズミで満杯になる。
「袋を閉めます!!ダイアンさん、同時に紐を引っ張ってください!」
「せーの!」という合図で、クレイとダイアンが紐を引っ張り、満杯に達した袋はその口を固く閉じ……るハズであった。しかし袋の口が閉じ切る前に、何かが激突した衝撃で二人は袋ごと、背後の水路へと吹っ飛ばされる。
バッシャァァアアアアアアンンン!!!!!
水位の低い水路へ、クレイとダイアンとネズミの入った袋……そして、全長二メートルはあろうかという黒い塊が飛び出した。その黒い塊とは……
「こ、これは……」
「モンスターではないのか!?」
ダイアンがモンスターと呼んだその黒い塊は、一際大きな鼠の姿をした……
「ヤブランマウスです! 森にしかいないはずのモンスターが…何故この王都に!?」
ヤブランマウスは体勢を立て直すと、グルルルル……と唸りながら身体をダイアンの倒れている方へと向けた。口を僅かに開いて、鋭い牙を見せながら涎をドロリと垂らす。大きく口を開いて、今にもダイアンに飛びかかろうとした瞬間、ヤブランマウスの体全体が急速に氷で包まれた。
「ジュリアさん!!」
ハァハァと息を切らせたジュリアが、水路の脇から凍化法術を放っていた。
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