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ヤブランマウスが氷で動けなくなった隙に、ダイアンとクレイは立ち上がり、水路の階段を昇ろうとした。が、氷漬けになったはずのヤブランマウスの口が、突如オレンジ色に輝き、そこから体を包んでいた氷が、みるみるうちに溶けていく。
「いけない! ヤブランマウスは炎を噴くんです!! 凍化は効きません!」
「何じゃと!?」
「え!? じゃあ何なら効くの!?」
「ええと…凍化以外の法術か……あとは物理攻撃でしょうか……」
クレイはチラリとダイアンを見た。というのもクレイは元々学者なので、攻撃力には自信が無い。しかもこのクエストにモンスター退治を想定していなかったので、武器は城の研究室に置いたままの丸腰だった。
ダイアンは吸血猫を探した。下水口から飛び出した彼は、そこから十数メートル程離れた水路の側面に張り付きながら、こちらを……ヤブランマウスの様子を窺っている。
すっかり氷の解けたヤブランマウスは、ブルブルと体を震わせて水気を飛ばすと、今度は法術攻撃してきたジュリアに狙いを定め、また唸り声を上げる。
「ちょっと~~!! 私ネズミ嫌いだってばぁ~~!!」
震えた足でジュリアが一歩二歩と後ずさりすると、怯えているのが伝わったのか、ヤブランマウスは大きな口を開けてニヤつき、喉の奥を鳴らした。そして次の瞬間、勢いよく炎の息を吐き出す。炎はゴオオオという音と共に、ジュリアの立っていた辺りを包み込んだ。咄嗟にその場へしゃがみ込んで防御したジュリアは、背中に焼け付くような熱の衝撃を待ったが、それはいくら待っても来なかった。
何故ならヤブランマウスの吐き出した炎は、ジュリアの遥か上空に逸れていたからだ。ヤブランマウスの脇腹に、ダイアンの蹴りが入っていた。しかしそれは致命傷にはなっておらず、少しよろけて頭を振ったヤブランマウスは、標的を攻撃してきたダイアンへとまた戻す。
(あいつ……まだ俺の体を使いこなせてない癖に、無茶しやがって!)
怒り心頭に発したヤブランマウスが空に向かって咆哮すると、ダイアンへ向かって猛スピードで突進する。それを避けられなかったダイアンの体は、もろに体当たりを喰らい、水路の壁へと打ち付けられた。標的がぐったりしたのを見計らうと、ヤブランマウスは再び大きな口を開けてダイアンに追撃し始める。
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