プロローグ:怪物《モンスター》になった盗賊《シーフ》

4/4
前へ
/43ページ
次へ
 カツンカツンと靴音を鳴らしながら、天井のやたら高い廊下を進む。クレイが口添えをしてくれたお陰で、門番達は先程とは打って変わり、あっさりと城内へダイアン(マリー)を通した。  クレイの後ろを歩きながら、目を皿のようにして城内をキョロキョロと見回す。壁や床は高い技術で加工された高級な石造りで、天井には神話を(かたど)っているのか、見事なレリーフまで施されていた。 「城に入るのは初めてですか?」 「あ? あぁ…」  城も何も…と、ダイアン(マリー)は自嘲気味に口元を緩ませる。この街を訪れるまでずっと、森の中で魔法の修行をしていたのだ。もっと言えば、物心つく前からずっと森から出ていないので、城だけではなく見る物全てが新鮮なのだ。 「まさかこんなに早く城へやってくるとは、思ってもいませんでした。実は今夜辺り、一度プランタンへは行こうと思ってたんですが」 「そうだったのか」 「ええ。お二人には早く同僚と会わせたくて。でもやっぱりダイアンさんは……いち早くマリーさんを元の姿に戻してあげたいですよね?」 「え!?」  思わず驚いてしまったダイアン(マリー)を、クレイは不思議そうな目で見つめる。 (そうだ……今はマリーではなくダイアンだったな) 「ま、まぁな」 「ダイアンさんも……マリーさんのこと、愛してるんですね」 「なっ!?」  思わずダイアン(マリー)の口はパクパクと慌てた。今何か、サラッと重大な発言を聞いたような…… (今クレイは、「ダイアンさん」と言わなかったか?) 「僕も婚約者がモンスターの姿になってしまったら、今のダイアンさんのように、一刻も早く彼女を元に戻す為に動くと思ったので……」  少し照れたようにはにかみながら、すぐにそう付け加える。途端にマリーの……いや、ダイアンの顔は渋くなった。 (そういう意味の『も』か……紛らわしい) 「僕も愛する人がいるので、ダイアンさんの焦る気持ちはよくわかるんです」 「わからんでもよい」 「え? 今何て?」 「何でもない」 「そうですか? あぁ、早く同僚に会わせたいのは山々だったんですが、実はまだ色よい返事は貰えてなくて……」 「色よい返事?」 「ええ。実は彼、ちょっと問題があって……まぁ、会えばわかると思いますが」  二人の進む廊下の先には、地下へと降りる階段が続いていた――
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加