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『人間の体だ……しかもこいつ、魔力があるぞ!?』
「あぁ、確かに喋ったな。しかもマリーに魔力があるとまで言ってた」
パフィの脳裏に昼間の光景が蘇った。噴水の女神像に引っ付いていたブーギィへ、風の法術を放つジュリア。彼女が放った一つ目の風は、扇風機並みのそよ風だったのに対し、ダイアンが背後に立ってから放つ二つ目の風は、ブーギィのつむじ風を遥かに凌ぐ勢いがあった。
「マリーさんは“魔法使い”?」
「そうじゃ」とマリーは鳴く。魔法使いが女性であれば、一般的には“魔女”と呼ばれるが、魔法を使うことに変わりないので、そこは敢えて訂正を入れなかった。
「このご時世に実在するとは……」
「俺もマリーに初めて会った時はそう思ったぜ。今やもう、殆どが国に認められた“法術”の使い手しか見ないもんな。魔法使いなんて、伝説の存在だと思ってたよ」
昔は法術使いも魔法使いも皆同じ“術使い”と呼ばれ、さほど違いは無かった。しかしある時を境に、国が自然の力を操る術のみを“法術”と定め、術使いに奨励した。法術のみを使う者を国の認めた“法術師”として国家資格を与え、法術以外の術は全て“魔法”と呼ばれ、国家資格の無い“魔法使い”は、雇われ難いこともあって衰退の一途を辿ったのだ。
「いやでも……だとしたら非常に不味い」
「何?」
「人間の姿になったグズマニアが、人間の言葉をすぐに喋るなんて症例、聞いたことがない。普通のグズマニアは声の出し方すらわからず喋らないか、言葉にならない発声をするのみだ。なのに人間の言葉を喋った挙句、『魔力』の存在まで感じるなんて……ただのグズマニアじゃない。もしかしたら魔力を使ったことがあるのかも……」
「なん……だって?」
ダイアンはゆっくりと隣を振り返り、マリーと視線を合わせた。こめかみには一筋の冷や汗が流れる。
「ギャギャギャギャ」
「本当ですか!?」
「何だって?」
「あの時“透化魔法”を詠唱してたって」
「ちょっと待て! 一旦整理させてくれ。……つまりだ、マリーの血を吸ったのはただのグズマニアじゃなくて、既にグズマニアに血を吸われた人間だったってことか?」
パフィと吸血猫は、同時にコクリと頷く。
「しかもそれが、マリーの同業者だって!? てか、マリーには心当たり無いのかよ!? 魔法使いなんてそんな沢山いないだろ?」
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