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フラウ王国首都フラワード、この街に一ヶ月近く滞在していたダイアンと吸血猫は、新しく加わったモンスター学者のパフィと、その研究対象であったブーギィと共に、北の地へと続く道を歩いていた。
以前馬車を使ってこの道を進んだことがあるが、その時は途中で北東の山岳地帯へ向かい、セロシア山の頂上で鉱石を獲るというクエストを達成した。そのクエストの帰り道で、マリーは謎の吸血猫に身体を奪われたわけだが。
パフィの話によると、セロシア山のある北東とは逆の北西方向に向かえば、グズマニアの生息する湖畔の森があるのだと言う。意を決して、二人と二匹がフラワードから一歩踏み出そうとしたその時、後方から「待ってーー!!!」と呼ぶ娘の声が聞こえた。
「誰だあれ?」
「ギャギャギャ」
「何て言った?」
「“ジュリアだ”って」
「ジュリア!?」
グズマニアは人間より二倍の視力を持つので、遠くから走り来るジュリアの姿を、マリーが一番先に視認した。歩みを止めたダイアン達の傍まで走り続けたジュリアは、ようやく立ち止まると両膝に手をついて肩を大きく上下する。
「何だよ、見送りか? よく俺達が街を出るのがわかったな」
「クレイさんに……訊いたの。あんた達が…旅に出るだろうって」
「クレイに? 何でまた?」
「マリーさんに……魔法を習いたくて!」
「はぁ!?」
ダイアンとマリーは目を大きく見開いた。ついでに口も開いている。
ジュリアは元々、法術学校の学費工面に困っていた苦学生だ。そんな彼女が偶然にもダイアン達に出会い、マリーの魔法を目の当たりにして、法術学校での授業よりもマリーから魔法を習いたいと思ったのは、想像に難くない。
「クレイさんに聞いたんだから! あの時マリーさんとダイアン、ちょいちょい入れ替わってたんでしょ?」
「あ、あぁ。…てかあいつ、気づいてたのか」
マリーは後ろを振り返り、クレイの居るであろう城を見つめる。
(クレイ……騙してすまない)
「あんたと一緒ってのが不本意だけど、私も付いてくから!」
「はぁ!? 何勝手なこと言ってんだよ!! 俺はなぁ、こいつだってまだ認めてねーんだからな!?」
そう言ってパフィを指差したダイアンの人差し指は、パフィが懐に忍ばせていたブーギィによってガリッと噛まれた。
「痛ぇ!!!」
「あんたの同意なんかどうでもいいのよ。私はマリーさんと一緒に居たいだけなんだから」
「その点についてはボクも同感だ」
「お~ま~え~ら~な~」
ダイアンは肩を震わせて二人を交互に睨む。しかしそんなダイアンをよそに、マリーは「ギャギャギャギャ」と涼しい顔で鳴いた。
「マリーさんが“いいじゃないか”って」
「だから俺抜きで勝手に盛り上がんじゃねーよ!!」
こうしてフラワードを出発した盗賊のダイアン、魔女で今は吸血猫のマリー、元モンスター学者のパフィとブーゲンビレアのブーギィ、そして法術師見習いのジュリアのパーティは、グズマニアの生息地である北西の湖畔の森を目指して歩き始めた。
それぞれに目的はバラバラだったが、マリーの体を取り戻すこの旅路は、まだまだ始まったばかりだ。
<完>
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