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貧乏な法術師見習い
「今日こそは高値で売ってやるんだから!!」
大きなかごを運びながら少女は、眉尻を上向かせて意気込んでいた。ピョコンと跳ねた前髪が、彼女の勇ましい歩みに合わせて上下している。
彼女の向かう先にはフラワード一、ひいてはフラウ王国一の市場が広がっていた。そこならどんな物でも揃うと評判で、国中の民が買い物にやってくる程の賑わいを見せる。フラウ城から真っ直ぐ南に伸びる広い大通り、そこが彼女の向かう城下町市場である。
朝早いこの時間、市場の人通りはまだ殆ど無く、各々店の天幕では開店準備が進められていた。果物屋は色とりどりの果物を店先に並べ、肉屋はトントンとリズミカルな包丁の音を響かせる。服屋は一番見えるところにどの服を置くかで頭を悩ませ、アクセサリー屋はとにかく光って目立つ首飾りを店先に吊るした。そんな開店準備の光景を横目で眺めつつ、彼女は目的の『法術道具屋』の看板を目指す。
「何でこんなはした金なんだよ!!」
突然、若い男の怒鳴り声が市場中に響き渡る。その声は当然、彼女の耳にも届いていた。
「お前さん、こんな粗悪品を俺に卸そうなんて百年早いんだよ!」
今度は中年男性の威厳ある怒鳴り声が響き渡る。二人の揉め合う声は、徐々に音量を増していった。
「いいか、よく見てろよ?」
髭を蓄えたスキンヘッドの中年男性は、筋骨隆々とした腕で若い男の持ってきた品物――ミトンを一つ掴むと、傍にあった“法術コンロ”に火を灯してそれを近づける。ミトンは暫くの間、何事もなくそのままの姿を保っていたが、五秒を過ぎた辺りで一気にボッと燃え上がり、それを見た若い男は「うっ!」と呻いて後退った。
「お前さんみたいな自称法術師はな、よく粗悪品の法術道具を売りつけやがるって相場が決まってんだよ!」
「頼むよ……金に困ってんだ。法術学校へ行くにも金が無いと行けないんだよ…」
「お前の事情なんか知るか! 金が欲しけりゃてめぇの母ちゃんにでも泣きつきな」
「冷たいこと言うなよ~。見た目は既製品の“法術ミトン”とそう変わらないだろ? 実際に使うまではバレ無いって……」
そう言うなり若い男は突然、店外へと吹っ飛ばされた。店主であるスキンヘッドの男に、力いっぱい殴りつけられたのだ。
「俺の店の信用問題に関わるんだよ! 一昨日来やがれってんだ!!」
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