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ピョンピョンと軽快に屋根から屋根へと飛び移り、大分城が間近に迫ってきたところで吸血猫は地上へと降り立った。そこからは一本道で、高低差の激しい屋根伝いに行くよりは地上の道の方が楽に城へと辿り着ける。
(しかし腹が減ったな……。宿で腹ごしらえしてくりゃ良かった)
とは思いつつも、全身毛だらけの身分で「どうやって宿屋の女将に食事を頼めばいいのか?」という根本的な問題もある。自分の身体の不自由さを自覚したところで、城下町市場へと差し掛かった。市場の店先には、色とりどりの果物が並んでいる。
(いいもんあるじゃねーか!)
果物屋のおばさん店主が商品を並べるタイミングを見計らい、目を離したほんの一瞬を狙って赤い実へとダイブする。店主は、並べたはずの果物が一つ減っていることにおかしいなと思いながらも、さして問題無かったかのようにそこへ新しい果物を並べていった。それを横目で見届けると、見つからないよう暗い路地へと逃げ込んで、咥えていた果物へ存分にむしゃぶりつく。
(うお~! 甘くてジュ~シ~!!)
モンスターの姿になっても、ダイアンの盗賊としてのテクニックは健在で、果物の他にも肉や魚、菓子に酒と、調子に乗っていろんな物を好き勝手に盗んで食した。どの店主も「おや?」とは思いながらも、気のせいだと受け流していたのだが、そのうち几帳面な店主が商品の減りに気付き、盗品を咥えた黒い毛玉が大通りを悠々と歩くを発見した。
「そいつは泥棒猫だ!! 誰か捕まえてくれ!」
大声で叫んだ店主が一人、吸血猫を追いかけ始めた。そのおかげで周囲の店主達は、こぞって泥棒猫を捕まえようと逃げ道を塞ぐように集まり始める。こういう時に団結力を発揮するのも市場ならではだ。
(やべっ!! 調子に乗り過ぎたか!)
必死で捕まえようとする店主達の手をかいくぐり、吸血猫は全速力で市場通りを駆け抜けた。その先にそびえ立つ、フラウ城の大きな鉄格子の門へ向かって。
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