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プロローグ:怪物《モンスター》になった盗賊《シーフ》
コーケコッコー!
早起き鳥の鳴き声で俺は薄目を開けた。ぼんやりと見える天井はまだ薄暗く、少しヒンヤリとした空気が鼻腔をくすぐる。
(頭が痛ぇ……)
ガンガンと内側から何者かが叩くような痛みを感じ、頭を摩る。そう言えば昨晩、いつも根城にしているBARプランタンで、ヤケになって飲み過ぎたのを思い出した。痛みを我慢しつつ、ハッキリとしてきた室内を見渡せば、ここ一週間寝泊まりしている宿屋の自室だとわかる。
(自力で戻って来たのか? プランタンで酔ったその後……ダメだ、思い出せねぇ)
とにかく脳をスッキリさせる為にもまず、顔を洗わなければと上体を起こす。いや、起こしたハズであった――
(え? 何で俺、こんな目線低いの!?)
ベッドから降りようと縁へ移動するが、視界には黒い毛で覆われた自分の手足が映り込む。
(は!? 何これ!? 何この体!?!?)
まるで毛玉のように全身が黒い毛で覆われ、指先には鋭く長い爪。そしてお尻からはニョロリと長い尻尾まで生えている。このビジュアルには見覚えがあった。忘れようと思っても忘れられるわけがない。急いでベッドを駆け下り、隣の洗面所へと向かう。
「ギャーーー!!!」
洗面所に設置された鏡の中には、最近嫌という程見慣れてしまったモンスターの姿があった。全身の毛は逆立ち、つぶらな瞳がこちらを見て驚愕している。
「ギャ!! ギャギャギャギャ!?」
何で!? 何でアイツの身体が俺なの!? ……と言った自分の言葉は、全て「ギャ」に変換された。そう言えば、この身体になってから彼女は大人しくしていたので、このモンスターの鳴き声自体聞いたことが無かった。
(やっぱりコイツ、人間の言葉は喋れなかったか。だからアイツはずっと黙ってたんだな……)
ようやく頭が冴えてきて、いつも通りに脳が回転し出す。プランタンで飲み過ぎた後の記憶が無い自分→なのにちゃんと宿のベッドの上で寝ていた→自分の身体が愛しの女の姿=モンスターになっている……ということは?
もう一度ベッドルームへ戻り、ベッド脇にあるテーブルセットの、丸テーブルの上へ飛び上がる。そこには案の定、我が愛しの女――マリーからの書置きが残されていた。
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