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風が背中をおした
そうだ、彼に会いに行こう。
誕生日とか、僕らが出会って何年目とか、特に何かあったわけじゃない。
整列乗車の最後尾でドアが開くのを待っていた時、ふと、今日なんだって思えた。
ホームの階段を上がり、発車を知らせるベルに追われて高崎線に走りこむ。
彼と過ごした地元の町には程なく着いた。
駅の待合室で、早くも同級生に声をかけられた。
この町で知りあいに会わず外出するのは難しい。
ここを離れたくない。
一緒にここで暮らそうって、彼は耳元でささやいたけど。
理解できない。
この町じゃ僕ら幸せになれない。
結局、僕には彼と2人きりで、この小さな町と戦う勇気はなかった。
タクシーで吊橋へ向かった。
知りたいとは思わない。
山から吹き下ろす風がたまたま彼をさらったのか。 それとも彼がみずから……。
波打つ吊橋の上を彼の最後の場所まで進んだ。 やっとこの場所に来れた。
手にした仏花をたむけようと、わずかに身を乗り出した、その時。
風が僕の背中を押した。
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