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絵美子Ⅱ
再会
1997年
今年ももう10月だ。あっという間の1年だった。理子がご飯をねだっているのか、お気に入りのスプーンでカンカン食器を叩いて、キャッキャと笑っている。
理子が生まれてもう1年が経つ。本当に初めてのことだらけで大変な1年だったが、絵美子はただの一度も辛いと思ったことはなかった。理子の笑顔や泣き声や笑い声を聞くとどんな嫌なことも忘れてしまうことが出来た。
絵美子は妊娠中に冬童史奈のことを思い出して、彼女のことを調べたときのことを思い出した。
『女子長距離界のマドンナ 東央大学の冬童史奈 1年生にして第6区 区間レコードに迫る!』
でかでかと史奈の写真が掲載されていた。
(すごい、やっぱり冬童選手、すごい人だったんだ・・)
絵美子は何故か自身が嬉しくなった。自分の夢を打ち砕いた人ではあるのだが、一緒に走ったことがあるよしみで史奈に対して親近感が湧いてきたのかもしれない。
私も頑張ろう・・・・出産を前に多少ナーバスになっていた絵美子を勇気づけてくれた記事だった。
「理子ちゃん、さっき食べたばかりでしょー?」
絵美子はこれから仕事があるので、理子を預けねばならない。愛おしい理子を持ち上げて、汚れた前掛けを外してやる。
理子はキャッキャとうれしそうに笑っている。絵美子は自分の娘をじっと見つめてぎゅっと抱きしめた。
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