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そして、その努力は高校2年の夏に実った。絵美子は女子3000mで念願のインターハイの切符を手にした。
今の自分のベストタイムでは、優勝は難しいかもしれないがコンディションをbestに近い状態まで上げることが出来れば決勝までは進めるかもしれない、普段はあまり感情を表に出さない絵美子であったが、体をのけ反らして両手を突き上げ全身で喜びを表現した。
「絶対優勝してやる!」思わず叫んでしまった絵美子の笑顔がはじけた。
絵美子は去年の夏を思い出していた。あそこまで微動だにせずテレビに見入ったのは初めてだったかもしれない。
バルセロナオリンピック女子マラソン、35キロ付近からの有森裕子選手とソ連のエゴロワ選手のデットヒート・・・「頑張れ!頑張れ!」絵美子はブラウン管の中の有森選手に何度も声援を送り続けた。
結果は銀メダル・・・有森選手はエゴロワ選手に一歩及ばなかったがこれほどの感動はなかった。これがオリンピック女子マラソンの初めてのメダル獲得だった。
トラック競技でのメダルは日本人には厳しいが、マラソンなら望みはある。有森選手がすべての日本人に希望を与えてくれた大会だった。オリンピックの陸上競技で日本人初の金メダリスト、他人には恐れ多くて言えなかったが陸上に青春を捧げた絵美子の壮大な夢だった。
インターハイ前日はほとんど寝れなかった。おまけに初めての大舞台で緊張のために絵美子の体は震えが止まらない。
もうすぐ女子3000mの予選が始まるというのに・・・絵美子は自身の肝っ玉の小ささが情けなくなってくる。
(・・・こんなんじゃ、走れない)
不安に駆られた絵美子は引率の顧問である新谷愛奈(しんたにまな)教諭に直接辞退を申し入れようと悲壮な表情で教諭に駆け寄った。
新谷教諭は絵美子の表情を確認するとやさしい微笑を浮かべながら声を掛けてくれた。
「大丈夫、あなたの力を出し切れば必ず決勝まで進めるわ」
新谷教諭は優しく絵美子の背中を撫でてくれた。
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