0人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ20代半ばの若い教師で、ほとんど陸上競技の経験もない新谷教諭に、普段は頼りなさと物足りなさを感じていた絵美子だったが、今回ばかりは新谷教諭の癒しが自分を少しばかり落ち着かせてくれた。
他の部員たちも顔面硬直の絵美子を見て、これはまずいと思ったのか、次々と励ましの言葉を掛けてくれた。観客席にはまだ予選なのに随分と沢山の生徒と教員が応援へ駆けつけてくれていた。
(意地でも決勝まで残らないと・・・)コンディションは正直最悪だったけど、応援に来てくれた人たちの期待を裏切りたくない・・・絵美子は自分の心臓に手を当て何とか自分を落ち着かせようと努力した。しかし、考えれば考えるほど心拍数が上がってくる。新谷教諭や部員たちの励ましの声が徐々に遠のいてゆく・・・極度の緊張で絵美子の視界が斜めに歪んだ。
(やだ・・・どうしよう・・・なんなのよ、これ)
焦って目を瞑ると視界は元に戻っていた。絵美子の額からは夏の暑さとは別種の汗が玉のように浮かんでいた。
〈これより、女子3000m予選を・・・〉アナウンスの声が後半何を言っているのか聞き取れない。ただ、自分の出番だと言う事だけは理解できた。
最初のコメントを投稿しよう!