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一時間程で店を出て、駅のタクシー乗り場に向けて歩きだす。
弱いけど冷たい風が、ちょうど降り始めた雪を緩やかに舞わせる。人気のない小路の先には、せわしなく行き交うタクシーのライトが見える。
「綾さん」
そう言った高山さんが、わたしを抱き寄せる。
わたしは自然と背中に手を回していた。コート越しにも分かる肉厚な背中に安心感を覚える。温かい。ずっと求めていたぬくもり。
でも、これは一時だけのかりそめのぬくもり。それでも、これでまた深く潜れる。またしばらく耐えられる。
これは貴之と一緒にいるための、わたしにとって必要な息継ぎ。
わたしが溺れてしまわないように。
了
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