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街灯に照らされチラホラ舞い落ちる雪が、暗いアスファルトに触れては消えていく。
まだ積もる程ではないかなと、持っている傘を開くことなく、濡れ始めた道を歩いて家路を急ぐ。ほとんど風もないため、身を切るような痛みに晒されることもない。
この時期にしては珍しいと思いながら、住宅街のバス停で降りた人々に紛れ、歩きながら考える。先にお風呂にしようか、それともご飯が先か。きっと貴之はまだ帰っていないだろう。今夜も十時過ぎまでは一人の時間だ。まあ、家に着いてから考えても遅くはないか。
いつもの帰り道。もう何年も同じことを考えている。暑い日も寒い日も。晴れの日も雨の日も。家に帰って最初にやること。貴之のためではなく、わたしのために何をするか。だから別に順番など考えてもあまり意味がないことだけど。
両脇に並ぶ同じような造りの建て売り住宅の窓からは、温かそうな光が漏れている。もうそこに見えているわたしの家には明かりはない。これもいつものことだ。わたしが残業で遅くなっても、貴之より遅くなることはない。貴之は、わたしより早く家を出て、わたしより遅く帰ってくる。最後に鍵を閉めて、最初に鍵を開けるのが、わたしの役目。それがわたしの日常。
白い外壁の二階建ての家の前に着くと、その白が余計に寒々しく感じる。
小さなガレージ脇を通り、ドアの前に立って、コートのポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。回して出たガチャッという音が、やけに乾いて響く。
ドアを開けると、外と変わらない冷えた空気が、玄関のラベンダーの芳香剤の匂いを運んで顔を打つ。
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