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屈託なく笑った拓海の言葉に栞里は狼狽し、慌ててビールを流し込んだ。
(これだから大人の男の人は……!!)
ドキンドキンと鳴った胸の音だけが耳に響いた。
なんとか話を変えようと、栞里は拓海を見たが、綺麗な瞳とぶつかりまた何も言えなくなった。
そんな栞里は知ってか、拓海は運ばれてきただし巻き卵を皿に取ると断面を見た。
「綺麗な断面だな」
余りにも意外な拓海の行動に、栞里はついさっきまでの動揺を忘れて拓海を見た。
「ダンメン?」
「そう。断面。なかなか上手く巻けないんだよね」
尚も卵焼きの断面を見ながら拓海は言葉を発した。
「卵焼き好きなんですか?」
「うん、弟が好きだからよく作るんだけど……」
そこで拓海の言葉が途切れて考えるような表情になったのを栞里は感じた。
「弟さん?」
「うん。弟によく作るんだけれどなかなか綺麗にできなくて……。焦げたり逆に半生だったりとかもするしね」
拓海は卵焼きを箸で器用に2つに割り、そのうちの1つを口に入れると「うん、味もうまい」と呟いた。
「優しいお兄さんですね。私なんて妹に何か作って上げた事……ないかも」
少し考える用に栞里は言った。
「そんなことはないよ。俺も作るのが好きだからね」
栞里は拓海とその見たことのない弟さんの事を考えた。優しいお兄さんなんだろうなと思い思わず笑みがこぼれた。
「栞里ちゃん?」
「いいえ、なんでも」
栞里はグラスを持つとビールを慌てて流し込んだ。
(他愛もない話が楽しいな。拓海さんといると)
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