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栞里がマンションへ消えると、拓海はなぜかタクシー降りた。
にこにこと笑いながら無邪気な笑顔を栞里に向けられ、拓海は内心複雑な気持ちでいた。
この笑顔は何も知らないから向けられているものであり、拓海にとってはあまりにも深く栞里に踏み込んではいけないという気持ちが交差する。
栞里の部屋が明るくなったのを見届けても、拓海はその場から離れることはできずただその部屋を見上げていた。
(俺、本当にストカーみたいだな)
そう心の中で呟き、通報でもされたら大変だと拓海は小さく息を吐くとようやく栞里のマンションに背を向けた。
「タクシー拾いなおさなきゃな」
拓海はそう独り言ちると、駅へと向かってゆっくりと歩き出した。
そこへ電話の鳴る音がして、びくりと心臓が跳ねるのが分かった。
ごくりと息をのむと、その相手を確認した。
仕事がらみの電話にホッと拓海は息を吐いて、受話器の通話ボタンを押した。
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