700人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
それから何週間が過ぎて行った。
「栞里ちゃん、先に上がっていいわよ」
少し前から閉店間際、拓海しかいなくなると、気を回した友里が栞里に声を掛ける様になった。
初めて拓海の前の席に座った日、栞里はなんかバツが悪く初めは戸惑っていた。
しかし、友里が強引に拓海の前にコーヒーを置きニヤッと笑ったのを見て諦めたようにしぶしぶ座った。
そんな栞里を拓海もクスクス笑って見ていた。
最近は、当たり前の様にマスター夫婦の片付けが終わるまで栞里は拓海と窓際の席でコーヒーを飲み、たまにマスターの好意で残ったサンドイッチやケーキを食べた。
「なあ、これってさ。」
「うん?」
拓海は栞里の前に雑誌を置くとトントンと指を指した。
「あー!天国!!」
栞里は少し大きな声を出して雑誌を手に取るとジッと見た。
「これだろ?栞里ちゃんが言っていたの?」
これが本来の拓海の話し方だとこの頃から気づいた。はじめの様な気を使った話し方の中にもふと砕けた話し方になる。栞里に少しは気を許してくれたようで栞里は嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!