楽しき日々

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「そうです!見て!天国って焼印がおしてあるの。そんなホットケーキってどんなに美味しいのかなって思いません?きっと幸せなところなんですよ。天国って。だからそこに行けるぐらいおいしいホットケーキって興味あるな……」 栞里は雑誌から目を戻すとうっとりとした顔をした。 (……あっ。またこの目) 時より不安に揺れる瞳を拓海の中に見つけることがあった。 それは栞里が拓海をよく見る様になったからか、拓海が気を許したから現れるのかは分からなかったが、はっきりとした、不安と何かが混じったような複雑な顔を見せた。 しかし何かを聞いても絶対答えない事はもう栞里にはわかっていた。 何度かの問いかけにも、拓海は『何でもないよ』と返した。思ったことを言い合おうと約束したにもかかわらず、誠実な面を持った拓海が言わないという事は、踏み込んではいけない領域なんだろうと栞里はこのころ理解していた。 話を変える事しかできない自分を情けなくも寂しくも思ったが、栞里は話題を変えた。
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