第三章 「狐の涙」

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「鬼猫、僕は誰が何と言おうと一緒に行くから」  どうにでもなれと強気で大和は言い張った。 「どの道、もうこっちの世界にどっぷり浸かっていると思うぞ」  大黒様が鬼猫の足をツンツン突いていた。その脇で恵比寿様が「釣りは仲間がいたほうが楽しいのぉ」と頓珍漢(とんちんかん)な物言いをしていた。 「鬼猫さん、いいでしょ」 「しかたがない。余計なことはするなよ」 「行っていいってことよね。鬼猫さん、ありがとう」 「ふぉふぉふぉ」  恵比寿様は一人大口を開けて笑い声をあげていた。 「では行くぞ。百目鬼、案内してくれ」 「はい、はい。それにしてもおかしな顔触れだな」 「無駄口はいい。さっさと行け」  百目鬼の話だと歩いて十分もかからないと言う。  鬼猫と百目鬼を先頭に蹴速、恵比須様と続く。愛莉と自分が一番後ろにいた。あれ、大黒様はと思っていたら鬼猫の背にちゃっかり乗っかっていた。鬼猫は気づいているのだろうか。気づかないはずがないか。これがみんなで遊びに出掛ける途中だったらどんなによかっただろうと大和はつくづく思った。 「むむ、おまえは」  鬼猫の凛とした声が耳に届き、大和は立ち止まり目を凝らして前を見遣る。  武将が一人行く手を遮っていた。 「邪魔立てするな、頼光」 「ふん、鬼は死すべし」  頼光は日本刀を下段に構えて向かってきた。下から斬り上げるつもりなのか。頼光の瞳は黒く白目がない。身体からは黒い煙が立ち昇っている。不気味としか言いようがない。  うわっ、笑った。大和は肩を竦ませて身震いした。
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