第三章 「狐の涙」

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 気配すらなかったのに、妖怪たちはいったいどこに隠れていたのだろう。口々に文句を言っている。  恵比須様はそれでも微笑んでいるだけだった。妖怪たちは言いたいことを言うとそそくさと帰って行った。大黒様が凄みのある視線を送っていたためだとすぐにわかった。  こんな間近で妖怪を見ることができるなんて。  たまたま様子を窺っていただけのようだ。悪さをするような妖怪ではないと鬼猫は話した。だが大黒様が鬼猫の話に割り込んで話し出した。 「アマビエは病気や豊凶を予言することができるんだぞ。アマビエの絵姿を持っていれば難を逃れるってものだ。あっ、決して甘海老と言い間違えるなよ。気にしているらしいから」  なるほど。 「小豆洗いは小豆さえ与えていれば喜んで洗っているな。小玉鼠がこの中では一番厄介だな。山の神の機嫌が悪いときに現れて背中から裂けて破裂する。その破裂音を聞くと獲物がとれなくなるとか、雪崩の災厄に見舞われるとか。まあ、何事もなく行ってしまったから大丈夫だろう」  大黒様は物知りだ。けど、知らなくてもいいかもしれない。 「大黒、大和、そんなところで話し込んでいると置いていくぞ」  大和は大黒様を手に乗せて走っていった。 ***
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