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「むふふ、鬼猫どもは絶対にここへは辿り着けまい」
徹は口を閉ざしてじっと社に目を向けている。狐が尻尾をユラユラさせて遠い目をしていた。尻尾が一、二、三、四……。九本もある。
どうしよう。とんでもない化け物に願い事していたみたい。
「パパ、ママ」
声をかけてもやっぱり目を覚ますことはない。
「狐さん、僕のパパとママを元通りにして。元気なパパとママにして」
「ふん、おまえがパパとママはいらないと言ったのだぞ。忘れたか」
「そうだけど、でも……。パパとママは死んじゃったの」
「どうだろうな、まだ生きているかもな。時間の問題だろうが」
「助けてよ」
狐は鋭い牙を見せつけて「うるさい」とだけ怒鳴りつけて社の中へと消え失せた。
もう嫌だ。こんなの嫌だ。
『パパ、ママ、ごめん』
徹は身体の力が入らず這い蹲るようにして自分の部屋へと向かった。なんでこんなことしてしまったのだろう。これじゃ、いじめっ子の孝くんよりも悪いことしているじゃないか。なんで気づかなかったのだろう。狐は悪い狐だ。きっとそうだ。
こうなったらやっつけてやる。徹はいつも蝋燭に火をつけるのに使っていたライターを手にすると蝋燭を数本持ち、ポケットにも入るだけ蝋燭を入れて再び隠し部屋のほうへと向かった。
もう死ぬしかない。
徹は壁に寄りかかって動かなくなっているパパとママにチラッとだけ目を向けると社へと近づいていった。
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