第三章 「狐の涙」

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「なぜ、信仰心のなくなった人間を守る。人間を守る価値があるとは思えないが」 「私は約束したのだ。子々孫々守り抜くと」 「ふん、馬鹿ばかしい。人間はすぐに約束を破るし身勝手だ。醜い争いもする。そんな人間の約束など無意味だ」 「九尾の狐よ、それは本心ではあるまい。お主の心が哀しみで溢れておる」 「うるさい、黙れ」  いったい誰と話しているのだろう。徹は意識が遠のきそうになりながら、会話に耳を傾けた。あれ、おかしいな。会話が聞こえてこない。霞む目で狐に目を向けたがじっと身動きせずに一点をみつめていた。  徹には狐が目にしているだろう存在が誰なのかわからない。本当に龍がいるのだろうか。そっちに目を向ける動きさえできなくなっていた。  もう死ぬのかな。きっとそうだ。  こんなに血が出ている。手が真っ赤っかに染まっちゃった。けど、なぜか痛みを感じない。どうしてだろう。もしかして、もう死んでいるのかな。 『大丈夫だ、おまえを死なせたりしない』  えっ、誰。 「ふん、龍の出来損ないに何ができる。そいつは最初から死ぬ運命だったんだよ。人とは馬鹿な生き物だ。弱い生き物だ」 「本当にそう言い切れるかな」  よくわからないけど、誰かが守ってくれているみたいだ。気が遠のきそうだけど、なんとなく温かみを感じる。不思議だけど水音も感じる。どこか懐かしい場所にいるような。どこだかわからないけど、似たような場所にいたことがある。徹にはそう思えた。  ここ落ち着く。薄暗いけど温かい。水の中にでもいるみたいな感覚がする。  あれ、パパとママの声がする。  パパとママ、助かったのかな。そうだといいけど。ああ、なんだか眠くなってきた。 「んっ、まずい。結界が破られた」  遠いどこかでそんな声が微かに届いたが徹はゆっくりと眠りについた。 ***
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