第三章 「狐の涙」

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 大和は愛莉に駆け寄りしゃがみ込むと「大丈夫。怪我はない」と声をかけて手を差し伸べた。 「大丈夫、ありがとう」  愛莉は笑みを浮かべて一人で立ち上がってしまった。大和は出した手を見遣り誤魔化すように手を組んだ。なんか恥ずかしさが込み上げてくる。みんなの視線も感じるが気にしないことにした。  カァー。  んっ、烏か。  どこにいるのだろう。空を見上げても烏は見当たらない。けど鳴き声は聞こえてくる。 「あっ」  愛莉が目で合図する先を見遣るとブロック塀の上でじっとこっちをみつめている烏がいた。すぐそばにいた。さっきまでいなかったはずなのに。  あっ、この烏、足が三本ある。八咫烏だ。  八咫烏は大きくひとつ鳴くと羽ばたき一旦上空に舞い上がって再び下降してきてブロック塀に吸い込まれるように姿を消した。  愛莉はポカンと口を開けてブロック塀をみつめている。大和も口を開けていた。 「あっ、ブロック塀が」  不思議なことにブロック塀がアイスのようにとろけ始めて景色が一変した。道が開けた。 「どうやら、結界が解けたらしいな。流石、八咫烏だ。道を切り開いてくれたようだ」  鬼猫はしゃがみ込んでいた自分の背中を尻尾でポンポンと軽く叩き「愛莉のことは残念だったな」と囁き歩みを進めて行った。  ああ、もう思い出させなくてもいいのに。八咫烏のおかげで何もなかったことにできたと思っていたのに鬼猫の奴。 「ほら、行きましょう。置いて行かれちゃうわよ」  目の前に愛莉の手が差し出されていた。大和は素直に愛莉の手を取ると「行こう」と立ち上がり崩れた結界の中へと足を踏み入れた。高揚感でいっぱいになったが今はそんな浮ついた気持ちでいてはいけないとすぐに気持ちを切り替えた。
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