第0章 「はじまり」

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「な、なんだと」 「お祖父ちゃん、どうしたの」  祖父は新聞記事を指差して「ここに『鬼猫』って」とだけ口にした。  音場愛莉(おとばあいり)はハッとして新聞記事に目を留めた。正直、漢字が難しくて全部は読めなかった。中学一年になってそんな漢字も読めないのかって怒られそう。それでも『鬼猫』の文字はわかる。当たり前か。まあ、祖父は漢字が読めないくらいで怒ったりしない。問題ない。 『悪いのは鬼猫だ。自分は悪を退治しているだけだ』の言葉に釘付けになる。どうしてこの人はそんなことを言ったのだろう。  気になる、気になる、気になる。胸の奥がむず痒い。 「これ、どういうこと。鬼猫ってあの神社の鬼猫さんのことかな」 「それはわからん。だが、何かが起きている気がする」 「愛莉、ちょっと神社に行ってくる」 「おい、愛莉。ちょっと待ちなさい」  待たない。だって胸騒ぎがする。よくわからないけど、新聞に書いてあった人の言葉はあそこの神社の鬼猫のことを指しているに違いない。だとしたら、狙われているのは神社の鬼猫だ。鬼猫は悪くなんてない。顔は怖いけど、鬼猫は優しい。  ここ最近鬼猫と話をしていない。どうしたのだろうって思っていた。まさか、退治されてしまったというのだろうか。そんなはずはない。鬼猫はただ留守にしていただけ。そうに決まっている。  愛莉は外へ飛び出して鬼猫鎮神社のある小山を駆け登る。小山と言っても標高百メートルくらいだろうか。その中腹に鬼猫鎮神社はある。 「鬼猫さん、今行くからね」  愛莉は走る。急げ、急げ、とにかく急げ。額に汗して息を切らして登っていった。 ***
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