第三章 「狐の涙」

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 愛莉は鏡の中に隠されていた櫛に手を伸ばした。 「待て、触れるな」  鬼猫が声を張り上げて愛莉の手を止める。 「どうして」 「いいから言う通りにしてくれ。櫛は大黒が持っていてくれ。今はあの火事を消すことが先決だ」  大黒様が櫛を懐にしまう。大黒様と同じくらいの大きさの櫛なのになぜかすんなり懐の中に入ってしまった。大和は愛莉と目を合せて小首を傾げた。  なぜ、櫛に触れてはいけなかったのだろう。鬼猫があそこまで声を荒げるなんて。  家の前まで来ると、鬼猫は「人の気配もある。かなり弱いがまだ生きていそうだ。蛭子、頼む」とだけ言い放つと家の中へと飛び込んで行ってしまった。流石にあとには続けなかった。 「ほれ、ほれ、いくぞ。ほいほいほい」  恵比須様はまたしても変な掛け声とともに再び棹を振る。やっぱり釣り糸は途中から消えて見えない。あの釣り糸は四次元空間にでも入り込んでいるのだろうか。 「いた、いた、みつけだぞい。ほれ」  (しな)る釣り竿の先には三人の人が釣り上げられていた。子供が一人、大人が二人。親子だろう。 「た、大変。この子、血だらけよ」  本当だ。腹部から血を流している。まずい、救急車も呼ばなくては。それとも消防車と一緒に来るだろうか。大和はもう一度通報をした。大人のほうも意識不明だ。かなり弱いが脈はある。微かだが息もある。  いったいこの家で何が起きていたのだろうか。
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